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 コンコン
…あれ、いないのかな。
「花穂ぉ」
 ん…やっぱりいないのかな。
 しばらくアヤシイ動きをしつつ待っていると後から何かがぶつかってきた。
「うわっ」
「おにいたま!」
「何かと思えば雛子か」
「なにしてるの?」
「うん、ちょっと花穂に用があって」
「花穂ちゃんならおへやにいるよ」
「え、そうなの」
「うん。さっきね、おそとからかえってきておへやにはいっていくのみたよ」
 うーん、どうしよう。急ぐことじゃないからいいんだけどねぇ。
 ガチャ
「あ、開いちゃった、て言うか開けちゃった」
「いいの、おにいたま?」
「まあ、ちょっとだけなら」
 貸したCDを返してもらうだけだからOKでしょ。
 中に入ると花穂はベッドにいた。疲れていたのか横になってそのまま眠ってしまったようだ。とりあえず風邪をひかないようにタオルケットをかけてやる。
 さてと、CDはどこかな。と、探すまでもなく机の上に置いてあるのを発見。
「中は…あるな。んじゃ撤退しま…」
 せん。なぜならばそこに「おにいちゃま観察日記」なるノートがあったから。
 なんだこれ!?非常に許せなさそうな日記の予感がする。
 ん、「おにいちゃま観察日記」って…ちょっとまて、今は夏休み。とするとオレはアサガオレベルということなのか。花穂の中ではオレ=アサガオ? マジで?
 いやいや、問題はそこじゃない内容だ。
 花穂には悪いが非常事態を誘発するタイトルなので検閲させていただこう。
7月○○日(晴れ)
今日から夏休み。
おにいちゃまは一日中お部屋でゴロゴロしてて、いつも以上にやる気がなさそうでした。
こういう時は何を言ってもムダなのでそっとしておきました。
でも咲耶ちゃんがしつこくさそってて、そうしたらおにいちゃまは「おまえは○○で□□だ」とか「人生とはな」とか変なことさけんでました。
咲耶ちゃんはあきれて物も言えませんって顔で出ていっちゃいました。
ダレにダレてる人が人生を語っても説得力がないことがわかっただけちょっとお勉強になりました。
 うむ、なるほど。オレの自堕落な生活記録教訓つきか。
教訓があるだけ四葉よりも数段ましだな。て、そういうことじゃないって。
 とりあえず続きを。簡単に目を通す限りではそれほど変なことは書いていない様子。まあ、オレについて書いてあること自体が変ではあるけど。
7月△△日(くもり)
おにいちゃまがお出かけするみたいだから、可憐ちゃんと花穂もついていくことにしました。
家を出たらおにいちゃまはうす暗いくもり空を見て「いやぁ、今日はいい天気だなぁ」て言うから、 また千影ちゃんに何かされちゃったのかなって思ったけど、そうじゃないみたいでホッとしました。
このあいだ千影ちゃんのお部屋から出てきたとき、何かブツブツ言いながらうつろな目で家を歩きまわったり、 とつぜん「悪いのはオレじゃない、あれはアイツが…しかたなかったんだ、ゆるしてくれ」って花穂には見えない人とおしゃべりしたり、 あの時はさすがにちょっとこわかったなぁ。
でも今日のお出かけは楽しかったなぁ。
おにいちゃまは本屋さんで立ち読みの世界記録をこうしんしてやるって、口に出して言うからお店の人におこられたり、 ゲームショップでずっとゲームしてたらいきなり電源おとされたり、 それほど引出しは多い方じゃないのに常にあきさせない行動をするしせいはすごいなって思いました。
 花穂はオレの何を見ているんだよ。だいたい最後の一言は何だ。ジャッジペーパー?オレは芸人じゃないぞ。 それに引出しが多いほうじゃないってのは余計なお世話だ。
 しかし千影にやられたことはまったく憶えてないなぁ。そうとうヤバイぞおにいちゃま。
8月○○日(晴れ)
今日はみんなでプールに行きました。
おにいちゃまはいやがって絶対に行かないと言っていたので、咲耶ちゃんがせいけんづき(でいいのかな?)で気絶させて春歌ちゃんといっしょにかついでつれて行きました。
 いきなりだもんな。気づいたらプールについてるし。もう勘弁して。暴力反対。魔術も反対だ。それからメカ反対、チェキ反対、ランニング反対、毒見反対、お馬さん反対、何かの練習台反対。
 …意外と耐えれるもんなんだな、人間って。
 それから全員で公共施設に行くってのが嫌なんだよな。
 何故か?目立つから。視線が痛いから。あからさまな「なんでおまえが」的な視線が嫌だから。
 雛子か亞里亞といると誘拐犯に間違われることもあるし。何こっち指差して小声で喋ってんだよ、みたいな。
だけどおにいちゃまは着替えてこなかったからみんなは大ブーイング。
でも実は水着を持ってくるのわすれてたみたい。
どうしようかって言ってたらお店があってそこで水着を買って、て言うかきょうせい的買わされていっしょにプールに入れるようになりました。
わん力やけん力があるとおにいちゃまを自由にできるみたい。花穂もほしいなぁ。
 逃げても良かったんだよな。後のことを考えなければの話だけど。
 それと腕力も権力も花穂には必要ないぞ。これ以上オレを痛めつけ…困らせないでくれ。
「…はぁ」
 溜息。
「おにいたま」
「うわ…って、ヒナか。2回も驚いてしまった」
「くししし…おにいたま、なにみてるの?」
「うん、ちょっとね…あ、」
 オレの隙を見て雛子はうまい具合に机にあったノートをとる。できるな。
「これって、にっき?花穂ちゃんの?」
「はいダメダメ。人のを勝手に見ちゃダメだよ」
「あ、」
 自分のことはさて置き、雛子からノートを取り上げる。
「ぶー、おにいたまもみてたでしょ」
「これはね、おにいたまにとって危険なものかもしれないから、確認してたの」
「きけん?」
「そ。はいはい、おにいたまは忙しいからヒナは出て行こうねぇ」
「えぇ、ヒナもみる」
「ええと…あとで遊んであげるから、ね」
「ほんとう?」
「うん。だからお部屋で待ってて」
「わーい。じゃあヒナまってるからね」
 と言うと走って行ってしまった。
ふ、子供は楽勝で攻略できるからいい。
 さて、続きをと。ぱらぱらページをめくる。
 …
 …
 …
 これで最後か。昨日のだな。昨日もロクなことなかったけどな…
8月△△日(晴れ)
 …あれ?これって今日の日付…なんで書いてあるんだ。
今日はお友達と待ち合わせをしてたからお昼前にお家を出ました。
おにいちゃまを観察できなくて残念。
帰って来たら眠くなっちゃって、ベッドに横になったらそのまま寝ちゃった。
そうしたら、おにいちゃまが風邪ひかないようにタオルケットかけてくたんだ。
あ、でもね…この日記おにいちゃまに見られちゃった…
 …は?
 見られた?
 え?
 なに?
そんな悪癖のあるおにいちゃまは…左向け、左!
 は?…左?左向け?
 なんだかわからんけど左!せーの、
「うわぁ!!」
「…あれぇ、おにいちゃま…?」
「かかかか、か、か、花穂!?」
 なに!?何が起きたんだ!
 日記のとおり左を向いたら眠たそうに目をこすっている花穂がいた。どういうことだ!わからん。
「…何してるの、おにいちゃま?」
「へ?あ、いや、別に、ただCDをだな…」
「あ、ごめんなさい。かえすのわすれてた…」
 よ、よし、まだ花穂は半分夢の中だ。適当に誤魔化して撤退だ。
「あぁ、いいっていいって、大したもんじゃないし。んじゃ、オレは部屋に戻るから」
「…うん」
 花穂のなんだからわからない返事を背に部屋から出、一呼吸置く。

「なんだったんだ一体…」
 いやマジで。本気と書いてマジで。
「ふ…あまり人の日記を、無断で見るものじゃないよ」
「うわ、なんだよ、千影か」
 いきなり出てくんなっていつも言ってるだろ。
「て、まさかアレ…」
「本当だったら、盗み見をネタに、次の儀式の生贄になってもらおうかと思ったんだけど…」
 勘弁して下さいよ、千影さん。千影様。姉御。もうなんでもいいからさぁ。
「たまには、息抜もしないと。ふふ、兄くんのうろたえる様が、何とも心地良かったよ」
 言うと何事もなかったように去って行く。
 はぁ、そうですか。息抜ね。はいはい。
 つくづく思う。ウチの妹ども…もとい、妹姫様たちはどこかずれてる。大事なところが。
 オレか…オレがずれてんだ。なら大丈夫だ。問題ない。うん、大丈夫…大丈夫…

「悪いのはオレじゃない!あれはアイツが…しかたなかったんだ、ゆるしてくれぇぇ!」
 アイツって誰だよ。もうわかんねぇ。オレの行く末見えたな。
 あ、ヒナと遊ばなきゃ。

「夏休み・花穂のおにいちゃま観察日記」おわり
2004/09/05-09

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